医師・看護師・薬剤師の被害例
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古賀克重法律事務所では長年医療過誤事件を取り扱ってきました。そのため協力医(第三者的立場から事案についてコメントしてくれる医師)のつながりから、医師・看護師・薬剤師などの医療従事者が被害者になった交通事故も取り扱うことが少なくありません。
法的責任、過失等については通常事件と同じですが、損害論においてはその業務の特殊性を反映させて相手方を説得することが求められます。
ここでは裁判例において医療従事者が被害者になったケースについて解説しています。
なおあくまで個別立証に基づいた各裁判所の個別の認定ですので、必ず認められる損害というわけではありません。
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復学のために要した費用
受傷した医大生について、復学について大学と話し合いをするために要した交通費10万5000円(本人分6万3000円及び父母いずれか1人分の4万2000円の合計)を認めた(東京地裁平成12年10月4日判決・交民33・5・1603)。
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損害賠償請求関係費用
右膝痛・右膝異常知覚(RSD、12級12号)の看護師(女性・固定時34歳)について、鑑定意見書作成費用50万円のうち30万円を認めた(東京地裁平成17年2月15日判決・交民38・1・219)
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休業損害
左大腿骨転子部骨折、下肢抹消神経障害及び難治性疼痛等の傷害を負った医療事務(女性・事故時47歳、左股関節機能障害12級、左下肢短縮の後遺障害13級の併合11級)について、事故発生日から653日間及びその後の入院日数合計78日については100%、平成22年4月22日から平成23年3月31日までの344日間から上記入院日数78日を除いた266日には50%の休業につき、本件事故前の収入年431万3500円を基礎収入として、1021万0586円を認めた(大阪地裁平成29年3月22日判決・自保ジャーナル2000・33)。
麻酔科勤務医(男性・固定時52歳、脊柱変形11級7号)について、病院退職前の休業損害604万円余に加え、休業によりその職を別の医師に交代し、復職を申し出た時には復職できず職を失ったとして、事故前の収入を基礎に、退職時から他病院に勤務するまでの5か月間245万円余を認めた(京都地裁平成27年3月19日判決 交民48・2・391)。
薬局経営者(女性・固定時64歳)について、営業収入から売上原価を差し引いた184万円余に、経費として損害保険料、減価償却費、地代家賃の合計33万円余を加算したものを基礎とした(東京地裁平成19年7月30日判決・交民40・4・1041)。
歯科開業医(男性)が入院療養のために3か月間休業した場合、休業期間の所得減少に加え、診療再開後も休診の影響から患者が減少し売上が減少したことから、診療再開後3か月間の売上減少の8割を損害と認めた(名古屋地裁平成14年9月27日判決・交民35・5・1312)。
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代替労働力
歯科開業医(男性・固定時52歳、脊髄障害3級3号)について、業務復帰が困難な傷害を負ったが、通院していた患者が継続的に歯科医療を受けられるようにする必要性を考慮すれば、当面の間、代替医師により歯科医院を継続する必要性・相当性は否定できないとして、代診医師の給料を含む給料賃金を基礎収入に加算した。その一方、広告宣伝費は、受傷内容が長期間にわたり就労不可能とするものであったことは明らかで、休業中に支出するのが相当な費用とはいえず基礎収入に加算せず、3120万円余を基礎に、症状固定まで339日間2897万円余を認めた(東京地裁平成26年12月24日判決・交民47・6・1597)。
一人で開業している歯科医師(女性・39歳、事故当時の年収1048万円)が、一人で全患者に対する診療行為を行うことができなくなった場合に、一部代診を依頼した医師に対する38日分の給与335万円を認めた(横浜地裁平成15年3月7日判決・自保ジャーナル1494・21)。
内科開業医(女性・45歳、頚椎・腰椎の神経症状14級)が痛みを抱えつつ診療や検査を行うことは相当の困難と苦労を伴ったことは容易に推認でき、事故から約4か月半・週1回程度、自ら従事すべき診療業務の一部の代替を1回あたり5万円で他の医師に依頼することは、損害の拡大を防ぐという観点からも相当性を有するとして、休業損害とは別に代診費用90万円を認めた(東京地裁平成25年7月16日判決・交民46・4・915)。
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後遺障害逸失利益(学生)
薬害系博士課程在学中の被害者(男性・固定時27歳)の高次脳機能障害(1級3号)について、学業優秀で製薬会社から内定後入社までの3年間奨学金を受けていたこと等から、入社が確実で将来少なくとも次長になる蓋然性は高いとし、定年の60歳までは同社年収の近似値である賃金センサス男性大卒全年齢平均の1・4倍にあたる944万2580円、以降67歳までは賃金センサス男性大卒60歳~64歳を基礎収入とした(東京地裁平成16年6月29日判決・交民・3・838)。
国公立大医学部進学コースに在籍する予備校生(男性・固定時19歳)の両下肢足趾(そくし)完全麻痺(1級1号)について、塾の大学受験科トップレベルのコースに在籍し、昨今の大学進学率等に照らすと大学に進学できた蓋然性があるとして、賃金センサス男性大学・大学院卒全年齢平均680万7600円を基礎収入とした(東京地裁平成22年9月30日判決・交民43・5・1265)。
高校生(女性・固定時19歳)が事故後に大学医学部に進学していることから、被害者の主張通り、賃金センサス女性医師全年齢平均947万7100円を基礎収入とした(東京地裁平成30年3月23日判決・交民51・2・366)。
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後遺障害逸失利益(失業者)
就職活動中で事故当日に採用通知を受けた正看護師の資格を有する被害者(女性・固定時71歳)の下肢短縮(13級9号)について、前職場での主たる職務は施設職員の指導であり、将来も同様の職務を担当することが予想されることから、事故前年の給与所得額305万円を基礎に8年間認めた(東京地裁平成18年6月27日判決・交民39・3・883)。
無職者(男性・固定時28歳)の高次脳機能障害(3級)について、比較的若年で、介護士になる希望を持ち専門学校への進学が決まっていたこと、事故前に正社員として勤務していた勤務先を退職後も複数のアルバイトに従事し月額10万円程度の収入を得ていたことから、労働能力及び労働意欲があり、専門学校卒業後に就労先を得る蓋然性が高いとして、賃金センサス男性学歴系全年齢平均555万4600円を基礎収入とした(福岡地裁判決平成18年9月28日判決・判時1964・127)。
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後遺障害逸失利益(上肢・下肢の機能障害、脊柱変形)
麻酔医の勤務医(男性・固定時52歳)の脊柱変形による腰痛等(11級7号)について、後遺障害が麻酔医としての労働能力に与える影響は否めず、現時点においては本人の努力等によって減収は生じていないとしても、将来的に不利益を被る恐れは否定できないとして、75歳までの23年間9%の労働能力喪失を認めた(京都地裁平成27年3月19日判決・交民48・2・391)。
消化器外科医(男性・固定時38歳)の腰痛・左臀部痛・左大腿後部痛(14級)について、事故後1年5か月間は減収がなく、また、現在の収入は事故時よりも若干増えているが、後遺障害残存により減収を伴う転職をし、経験を積んでいた消化器外科から形成外科に転向したことによる経済的不利益を生じていることから、10年間5%の労働能力喪失を認めた(名古屋地裁平成21年1月23日・交民42・1・38)。
内科勤務医(男性・固定時30歳)のふらつき(12級13号)、そしゃく・開口障害(12級相当)、左耳鳴り(14級相当)の併合11級について、難聴により聴診器による細かい音の聞き分けが困難となり、内視鏡操作で時にめまいを生じ、人に替わってもらう不都合があり、現在は医師として同僚と同様の仕事をこなしかなりの収入を得ているが、それは原告の格別の努力や時間外労働から得られており、今後、後遺症が影響を及ぼすとして、1603万円を基礎収入として、37年間20%の労働能力喪失を認めた(岡山地裁平成23年3月2日判決・交民44・2・297)。
歯科医院勤務予定者(女性・固定時23歳)の第5胸髄以下完全麻痺、両下肢自動運動不能、泌尿器官機能麻痺等(1級)について、減収がないのは被害者の特別な努力によるものとして、44年間100%の労働能力喪失を認めた(神戸地裁平成3年12月20日判決・交民24・6・1572)。
整骨院勤務の男性(固定時33歳)の左肩関節機能障害(併合9級)について、就労の上で相当の不便を被っており、努力によって減収を免れているとして、34年間27%の労働能力喪失を認めた(大阪地裁平成14年2月22日・交民35・1・251)。准看護師(女性・固定時45歳)の左足関節機能障害(12級7号)、左足1~5趾機能障害(11級9号)の併合10級について、事故後救急病棟の脳神経外科からクリニックの老人介護の勤務になり、収入は事故前の年収494万円から530万円に増加しているが、事故の努力と周囲の援助で従事しており、定年60歳まで現在の地位と収入が確保される確実な保証はないうえ、定年後の再雇用等の可能性や後遺障害のある者の再就職には支障があることから、事故前の年収494万円を基礎に定年まで15年間は14%、以降67歳まで7年間は27%の労働能力喪失を認めた(大阪地裁平成23年1月19日・自保ジャーナル1857・67)。
郵政局医務室勤務の放射線技師(男性・固定時52歳)の右膝関節機能障害(12級7号)について、減収がないのは被害者の努力によるもので、今後病院勤務に転出できないことによる昇給上の不利益を被る蓋然性もあるとして、15年間10%の労働能力喪失を認めた(大阪地裁平成13年11月30日判決・交民34・6・1567)。
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後遺障害(眼)
看護師(女性・固定時50歳)の両眼滑車神経麻痺による正面視の複視(10級)について、自賠責保険の労働能力喪失表は従事する職種等を考慮しない一般的なものであるから、被害者の職種等により労働能力喪失率が増減する場合もあるとし、看護師という職業に目の異常が及ぼす影響は多大で退職を余儀なくされたこと、現在は生命保険のパート、コンビニでのアルバイトで収入を得るにとどまっていること等から、17年間40%の労働能力喪失を認めた(東京地裁平成18年12月25日・自保ジャーナル1714・2)。
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PTSDその他の非器質性精神障害
脳神経外科医(男性)の抑うつ気分、意欲の減退、食欲不振、不眠(12級13号)について、手指の機能・感覚の異常等を精査するため入院する必要があり、これによって休職し、復職への不安から抑うつ状態となり、症状が悪化しうつ病になった経緯等から本件事故とうつ病発症との間に相当因果関係を認めた上、素因減額をせず、原告の主張通り10年間14%の労働能力喪失を認めた(東京地裁平成27年2月26日判決・交民48・1・264)。
主婦兼看護助手(女性)が中等度のPTSDで12級相当の後遺障害を後遺したとして、PTSD以外の頚椎捻挫後の頸部痛、両上肢痛しびれ、頭痛等(14級10号)、腰椎捻挫後の腰痛、両下肢痛等(14級10号)とあわせて、10年間14%の労働能力喪失を認めた(東京地裁平成17年11月30日判決・交民38・6・1608)。
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RSD(CRPS)その他の疼痛障害・局部の神経症状
眼科医(女性・固定時33歳)の頸部痛・後頭部痛・眼精疲労・左手の振戦(14級10号)について、左手の振戦のため手術ができなくなり研究職に転向せざるを得ず、従前のアルバイト収入が得られなくなったことから、10年間12%の労働能力喪失を認めた(甲府地裁平成17年10月12日判決・自保ジャーナル1640・16)。
産婦人科医師(男性・固定時34歳)の自賠責は頸部疼痛・両上肢痺れ14級10号に対して、自賠責は頚椎可動域制限を評価していないとし、職業上、手術に従事することは避けられず、頚椎の可動域制限が手術に影響を及ぼすと考えられることから、33年間15%の労働能力喪失を認めた(東京地裁平成19年5月28日判決・交民40・3・692)。
夫の開業する歯科医院勤務の女性(固定時53歳)のRSDにともなう神経症状(12級12号)、左足関節機能障害(12級7号)、肋骨骨折後の疼痛(14級10号)、歯牙折損(14級2号)の併合11級について、RSDにかかり易い心因的要素の寄与を理由に減額すべきとの加害者側の主張を退けて、14年間20%の労働能力喪失を認めた(横浜地裁平成13年10月12日判決・自保ジャーナル1421・2)。
看護師(女性・固定時34歳)の右膝痛、右膝の異常知覚等(自賠責非該当)について、これらの症状がRSDであると認め、少なくとも局部に頑固な神経症状を残すものとして(12級12号)、10年間14%、その後10年間10%の労働能力喪失を認めた(東京地裁平成17年2月15日判決・交民38・1・219)。
病院勤務の女性(固定時30歳)の右膝のケロイド状の瘢痕及び同ケロイドの痛み(14級9号)について、ケロイド状瘢痕に起因する症状は短期間で消失するとは言い難いとして、37年間5%の労働能力喪失を認めた(神戸地裁平成25年10月10日判決・判時2234・75)。
看護師の女性(固定時42歳)の右示指及び左膝関節の神経症状(併合14級)について、67歳までの25年間5%の労働能力喪失を認めた(東京地裁平成28年11月1日判決・交民49・6・1341)。